カメさん日報です。
前回の更新が2016年8月13日ですから、久しぶりにブログを書きます。
言い訳ですが、現在、複数のビジネス誌の毎月の締切りに追われていることに加え本の執筆もあったためです。
しかし、起業してから、執筆の声が掛かったのもこのブログが、きっかけで私の原点のようなものですから、再開したいと思います。日報と言いながら、毎日は難しいと思いますが、できるだけこまめに書きたいと思います。
先日、坂本光司教授の誕生日プレゼントを買いたいが何かいいのか?「人を大切にする経営学会」の事務局から相談があったために、協和に久しぶりに訪問しました。以前、若松専務にお伺いしたことに加えて、6月上旬にお話をいただいたことを書きたいと思います。
株式会社 協和日本ホールディングス(以下、協和)は、戦後、1948年東京浅草鳥越で起業した鞄の製造会社である。現在、グループ全体で約500名、売上100億円弱に成長しています。また、協和は、少子により市場規模の減少している中、ランドセル業界では第2位です。(ランドセル製造会社は、最盛期には400社弱、現在10分の1)
協和という社名の由来は、創業者であり現経営者の若松種夫氏(以下種夫氏)が、太平洋戦争で南方戦線を転戦し、一緒にいた4,000人の部隊が1%の40人になってしまい死地をさ迷いました。その際、食べ物が野草しかないような戦地で、仲間に食べ物をわけてもらえる人間だけが無事に帰ってくることができたそうです。そうした壮絶な経験から、「どんなときでも仲間や同僚と協同して助け合う。平和を大切にする」のが、種夫氏が得た教訓でした。そこで、キーワードである「協同と平和」を重ね合わせ「協和」を社名にしたのです。
私自身も、以前は、協和の目の前に本社を置く、PORTER吉田カバンやTUMI等を使っていましたが、協和を知ってから、普段使うカバンは、基本的には協和です。協和のカバンを使っていると、使い勝手がいいだけでなく、若松専務から教えていただいたことを思い出すことができるからです。
協和の特徴を、簡単に紹介します。
1.こだわりのランドセルメーカー
①障がい児向けランドセル
協和の特徴は、障がい児向けのランドセルをつくっていることだ。障がい児向けのランドセル「ユーランドセル」の製造を始めたきかっけは、20年近く前です。
肩に障がいを持つ子の親から鞄業界団体に問い合わせがありました。業界担当者は、軒並みランドセルメーカーに連絡しましたが、唯一受けたのは協和だけでした。一人の障がい児の特殊ランドセルをつくることは採算が合うはずもありません。1つのランドセルを手作りで行くと、10万20万という価格でしか販売できないのが実際です。しかし、協和は、価格は普通のランドセルと同じ3万円以内(当時、現在は3万円台)に設定しました。
その後、問い合わせのオーダーに応えるだけでなく、積極的に「全国肢体不自由児・父母の会連合会」の協力を経て、日本で初めて障がい児用セミオーダーのランドセルを1999年に発売させたのです。以来、数多くの障がい児向けのランドセルが通常のランドセルと同じ価格で障がい児のもとに届けられるようになりました。
➁華美でない普通のランドセル
ランドセルメーカーは、少子化の影響で厳しい状況です。そのためランドセルメーカー各社は、百貨店や総合スーパーの客単価を上げる施策の提案で10万を超える高級ランドセルの販売にシフトしています。しかし、協和は、そういった高級ランドセルをつくりません。理由は、子供の教育に良いと思わないからです。ランドセルは、小学校1年~6年まで使います。しかし、お金持ちの家庭があり、10万円のランドセルを持っている子がいて、一方、収入が少ない家庭の子が2万円のランドセルを持っているといったことは、大人が高級バックを持つか安価なバックを持つかの選択と本質的に違います。以前、コンパス一つでも学校は同じものを持たせようとしたのは、家庭の貧富が悪影響をもたらさないためだったそうですが、子供向けの商品販売には配慮が必要なのではないかと考えるからです。
「あれは最高級のランドセルだぞ」と金持ちを羨む心が生まれるだけでも教育現場では望ましいとは言えず、「あいつは貧乏だから高級なものは買えない」と貧しいものをサゲしむ心が芽生えるかもしれない。そのため、色でこそ赤と黒から10種類にしたものの、高額にするために華美な装飾品を付けるようなことは、いくら小売店から要請があっても断っています。また、6年間大切に使えるように、無償で修理を入学から卒業するまで6年間続ける業界では異例のサービスを提供している。
③被災地へのランドセル1万個以上寄贈
協和は、津波で流された子供のために1万個以上の寄贈を行いました。さらに、まだ震災後の復興は終わっていないと、入学を迎える被災者子供たちに以下の取り組みを続けると宣言して継続しています。
1.入学を迎える災害孤児を対象に新品ランドセルを寄贈
2.生活保護家庭の新入学児童のお子様を対象に新品ランドセルを寄贈
3.震災時に既に在学しており、ランドセルの提供を受けたが、汚損・破損がひどく使用に耐えられない状態である場合、再生ランドセルを寄贈
東日本への被災者へのランドセルの寄贈は続けられています。
実際の申込は、下記のURLにあるPDFを協和に送付すればできます。
http://kizuna.yamagata1.jp/modules/con04/index.php?content_id=505
2.目的と手段を履違えない地道な経営
こうしたランドセルを提供している協和には、企業経営の目的を履違えない信念が会社全体に行き渡っています。例えば、上場したいと言ったことは悪いことではありません。しかし、何のために上場したいのかが一番根本的に重要です。若松専務は、「根本的なことを常に考え続ける会社で在りたい」と言います。
企業活動の中で、売上・利益を出すことが目的化してしまっている企業が数多くあります。しかし、本来、関係者が幸せになるための手段、或いは、幸せになった結果であるべきものです。
若松専務は、次のようなことを話してくれました。
「社員が仕事の意味を見出してくれること、少しでも仕事をしやすい環境になること、社員の報酬が少しでも上がること、社員の仕事とバランスを取れるようになる。といった地道なことは一番大事。凄い賞与を出したとか、海外旅行を派手にするとかは世間受けをするが、永続可能か、最終的に社員のためになるかをしっかりと考えなければならない」
言葉通り、協和では、10年スパーンで考えることを大切にして定期的に振り返っています。最近、振り返った10年間の歩みは以下の通りです。
・10年間定期的に、少人数だが新しい仲間が入って辞めないでいる。
・売上10年間30%増。
・社員の年間所得30%増。(法廷福利を除いた社員の所得)
※売上が伸びて会社の利益が出た分を社員に還元している。
・販売管理費は、10年前と変わらず。(一般管理費や販管費は社員の知恵で抑える工夫)
ちなみに、協和では、人件費項目を経費から抜いています。決算書は国のルール通り行っていますが、社内では、人件費を一般的な管理費とか営業費とか会社の経費から除いています。理由は、「人件費は上げるべきもの、販管費は落とすべきもの」と考えているからです。こうした細部に、目的が何かを履違えない経営を貫いていることがわかります。
若松秀夫専務は、「経営で大切なことは、地味のことである」と言います。
協和は、決して派手に宣伝をするような会社ではありません。他の会社に比べて驚くような社会貢献をしながら、知っている人は少ないのではないでしょうか。日本でいちばん大切にしたい会社大賞審査員特別賞受賞や日本でいちばん大切にしたい会社4に掲載されて、多少、知られるようになった程度です。
現場を数多く回っていると、見たくないもの聞きたくないことにも遭遇します。売名行為的なCSR(企業の社会的責任)に目を防ぎたくなることもあります。そうした企業は、協和が大切にしていることを肝に銘じるべきだと思います。